【疑惑の濁流】偽バイアグラなど、
中国から押し寄せる
(産経 2016.10.1 15:00)
本物を装った
偽の医薬品が、
海外から大量に押し寄せてきている。
輸入品を検査する
税関の全国統計では
昨年、
偽の医薬品の輸入差し止め点数が
前年の2倍を超えた。
税関では
医薬品に加え、
健康器具や
自動車の付属品などを
「健康や安全に悪影響を及ぼす物品」
と位置づけているが、
東京税関の管内では
こうした商品の差し止め点数が
今年、上半期ベースで
過去最高を記録した。
偽の商品のほとんどは
中国から輸入され、
インターネット通販で
売りさばかれている可能性が高い。
差し止められるのは
ほんの一部とみられ、
関係者らが危機感を強めている。
「DIETARY SUPPLEMENT」
と書かれた箱に入ったプラスチックボトル。
開けると、市販のカプセル剤が入っている。
が、そのカプセル剤を取り出すと、
底にポリ袋入りの別の種類の黄色い錠剤
約30錠がみつかった。
「C20」と刻まれたこの錠剤は、
性機能改善薬の商標権を侵害しているとして、
税関に輸入を差し止められた。
こうした偽商品は
大量の荷物の中に紛れ、
全国の空港や港に日々届けられている。
一見して分からないほど
本物そっくりに作られてている上、
通常の荷物に紛れ込ませたり、
箱の底に隠したりと、
隠匿手段も巧妙。
それを事前に収集した情報や
勘を基に探し当てるのが税関の仕事だ。
財務省によると、
昨年、全国の税関で
偽物として差し止められた
「知的財産侵害物品」は、
2万9千274件、
68万9千621点で、
件数では最多の平成26年に次ぐ、
過去2番目の高水準を記録した。
1日で、平均80件、
1千800点以上を差し止めている計算になる。
品目別でみると、
▼ 件数では財布やハンドバッグなどが
35・2%と最も多かったが、
▼ 点数だと医薬品が
最多の12・8%。
前年の2倍以上となる
約8万8500点に急増している。
医薬品の中でも、目立っているのは
性機能改善薬だ。
有名な「バイアグラ」や「シアリス」などに
似せた商品が大量に差し止められている。
税関関係者は、
「『バイアクラ』といった紛らわしい表記もあれば、
ほぼ完全に同一のパッケージもある」と話す。
こうした知財侵害品の仕出し国は、
過去5年間、中国が9割以上を占めている。
東京、埼玉、新潟など1都5県や、
成田空港、羽田空港など、
大規模拠点を管轄する東京税関。
今年上半期、知財侵害品のうち、
医薬品を含む「健康や安全に悪影響を及ぼす物品」
の差し止め点数が、
上半期公表を始めた23年以降、
最多の約2万5千点となった。
悪影響を及ぼす物品には、
顔に当てる美顔ローラーや
胴に巻き付ける痩身(そうしん)用マッサージ器
といった健康器具も分類される。
シートベルトやエアバックの部品をはじめとした
自動車付属品なども、
故障すれば危険だとしてこの中に含まれている。
東京税関関係者は
「知財侵害が理由で差し止めているが、
併せて安全も保証できないというのが
偽ブランド品などと違うところ。
薬なら何が入っているか、
部品ならどれほどの強度があるのか
全く分からない」と危機感を募らせる。
こうした差し止めは
ごく一部に過ぎない。
検査をすり抜けた商品は、
最近10年で普及したネット通販で
国内に流通しているとの見方が大勢だ。
過去、通販で問題となった
知財侵害品では、
人気抱っこひも「エルゴベビー」の偽物があった。
偽造品が出回っていることを受け、
正規総代理店が調査したところ、
偽造品は正規品よりも
値段が安く、生地が薄い
▽ バックルのかみ合わせが緩い
▽ 使用中にゆるむ
-など、安全性に問題があったことが判明した。
税関が知財侵害品を差し止めた場合、
輸入者などに聞き取りを行うこととなっているが、
「回答がない輸入者も少なくない。
検査をすり抜けた別の偽物が売れれば、
一部が差し止められても『経費のうち』
くらいに考えているのではないか」
と税関幹部は推測する。
偽造品の蔓延(まんえん)を防ぐには、
消費者側も偽造品を安易に買わない、
だまされない、という意識が
必要になりそうだ。
税関関係者は、
「ネット通販市場は今後も活発になるだろう。
医薬品をはじめ危険な商品の水際対策に
一層力を入れていく」と話した。