わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収めるIRBM/MRBMについては、TELに搭載され移動して運用される固体燃料推進方式のDF-21やDF-26があり、これらのミサイルは、通常・核両方の弾頭を搭載することが可能である41。中国はDF-21を基にした命中精度の高い通常弾頭の弾道ミサイルを保有しており、空母などの洋上の艦艇を攻撃するための通常弾頭の対艦弾道ミサイル(ASBM:Anti-Ship Ballistic Missile)DF-21Dを配備している42。また、射程がグアムを収めるDF-2643は、DF-21Dを基に開発された「第2世代ASBM」とされており、移動目標を攻撃することもできるとみられている。さらに、中国は、IRBM/MRBMに加えて、射程1,500km以上の巡航ミサイルであるDH-10(CJ-10)、そしてこの巡航ミサイルを搭載可能なH-6(Tu-16)爆撃機を保有しており、これらは、弾道ミサイル戦力を補完し、わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収める戦力となるとみられている44。中国は、これらASBM及び長射程の巡航ミサイルの戦力化を通じて、「A2/AD」能力の強化を目指していると考えられる。
SRBMについては、固体燃料推進方式のDF-16、DF-15及びDF-11を多数保有し、台湾正面に配備しており45、わが国固有の領土である尖閣諸島を含む南西諸島の一部もその射程に入っているとみられている。
また、中国は、ミサイル防衛網の突破が可能となる打撃力の獲得のため、弾道ミサイルに搭載して打ち上げる極超音速滑空兵器の開発を推進しているとみられており、今後の動向が注目される46。
参照図表I-2-3-2(中国(北京)を中心とする弾道ミサイルの射程)
(3)陸上戦力
陸上戦力については、約160万人と世界最大である。中国は、1985(昭和60)年以降に軍の近代化の観点から行ってきた人員の削減49や組織・機構の簡素化・効率化に引き続き努力しており、装備や技術の面で立ち遅れた部隊を漸減し、能力に重点を置いた軍隊を目指している。具体的には、これまでの地域防御型から全国土機動型への転換を図り、歩兵部隊の自動車化、機械化を進めるなど機動力の向上を図っているほか、空挺部隊(空軍所属)、水陸両用部隊、特殊部隊及びヘリコプター部隊の強化を図っているものと考えられる。また、部隊の多機能化を進め、統合作戦能力の向上と効率的な運用に向けた指揮システムの構築に努力し、後方支援能力を向上させるための改革にも取り組んでいる。
中国は、09(平成21)年に確認された「跨越2009」以降、10(同22)年から13(同25)年までは「使命行動」、14(同26)年以降は「跨越」及び「火力」といった、陸軍の長距離機動能力50、民兵や公共交通機関の動員を含む後方支援能力など、陸軍部隊を遠隔地に展開するために必要な能力の検証・向上などを目的とする、複数の軍区に跨がる機動演習を毎年実施している。また、「使命行動2013」には海軍及び空軍も参加したとされるほか、14(同26)年以降は「統合(聯合)行動」で兵種合同・軍種統合演習が実施されていることなどから、併せて統合作戦能力の向上も企図しているものと考えられる。
参照図表I-2-3-3(中国軍の配置と戦力)
(4)海上戦力
海上戦力は、北海、東海、南海の3個の艦隊からなり、艦艇約880隻(うち潜水艦約60隻)、約150万トンを保有しており、自国の海上の安全を守り、領海の主権と海洋権益を保全する任務を担っている。中国海軍は、国産で最新鋭のユアン級潜水艦51や、艦隊防空能力や対艦攻撃能力の高い水上戦闘艦艇52の量産を進めているほか、最新のYJ-18対艦巡航ミサイルを発射可能な垂直ミサイル発射システム(VLS:Vertical Launch System)などを搭載した巡洋艦の開発を進めているとの指摘もある。また、大型の揚陸艦や補給艦の増強を行っているほか、08(同20)年10月には大型の病院船を就役させた。
空母に関しては、ウクライナから購入した未完成のクズネツォフ級空母ワリャーグの改修を進め、11(同23)年8月から試験航行を開始し、12(同24)年9月に遼寧(りょうねい)と命名し、就役させた53。同艦就役後も国産のJ-15艦載機を用いた艦載機パイロットの育成や同艦における発着艦試験を継続していると考えられ、13(同25)年11月には、同艦が初めて南シナ海に進出し、当該海域で試験航行を実施した54。また、15(同27)年12月末、中国国防部報道官が、国産空母の建造を初めて正式に認め、当該空母は「大連で建造されており、排水量は5万トン級で、通常動力装置を採用して」いるほか、「スキージャンプ式の発艦方式をとる」55と発表した。
建造中の中国国産空母とされる船体(16(平成28)年6月2日)
(Jane’s Defence Weekly)
(Jane’s Defence Weekly)
このような海上戦力強化の状況などから、中国は近海における防御に加え、より遠方の海域において作戦を遂行する能力の構築を目指していると考えられる56。こうした中国の海上戦力の動向には今後も注目していく必要がある57。
(5)航空戦力
航空戦力は、海軍、空軍を合わせて作戦機を約2,720機保有している。第4世代の近代的戦闘機は着実に増加しており、ロシアからSu-27戦闘機の導入・ライセンス生産などを行い、対地・対艦攻撃能力を有するSu-30戦闘機も導入しているほか、Su-27戦闘機を模倣したとされるJ-11B戦闘機や国産のJ-10戦闘機を量産している58。また、ロシアのSu-33艦載機をモデルにしたとされる国産のJ-15艦載機が、空母「遼寧」に搭載されている。さらに、中国は、15(同27)年11月、ロシアの国営軍事企業と、最新型の第4世代戦闘機とされるSu-35戦闘機24機の購入契約を締結したとされているほか、次世代戦闘機との指摘もあるJ-20及びJ-31戦闘機の開発も進めている59。中国空軍は、核兵器や最新鋭のYJ-12空対艦ミサイルを含む巡航ミサイルを搭載可能とされるH-6爆撃機を保有している。
このほか、H-6U空中給油機やKJ-50060及びKJ-2000早期警戒管制機などの導入により近代的な航空戦力の運用に必要な能力を向上させる努力も継続している。さらに、輸送能力向上のため、新型のY-20大型輸送機を開発中61であるとみられている。このような様々な航空機の自国での開発・生産・配備やロシアからの導入に加え、偵察などを目的に高高度において長時間滞空可能な機体(HALE:High Altitude Long Endurance)や、攻撃を目的にミサイルなどを搭載可能な機体などを含む多種多様な無人機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)62の自国での開発を進めているとみられ、その一部については生産・配備も行っているとみられている。
新型早期警戒管制機「KJ-500」
軍事パレードで展示されたGJ-1(「翼竜(よくりゅう)」)攻撃型無人機【IHS Jane’s】
このような航空戦力の近代化状況などから、中国は、国土の防空能力の向上に加えて、より遠方での制空戦闘及び対地・対艦攻撃が可能な能力の構築や長距離輸送能力の向上を目指していると考えられる63。こうした中国の航空戦力の動向には今後も注目していく必要がある。