韓国の窃盗団によってまた対馬の仏像が盗まれた。2年前に盗まれた仏像2体は韓国の司法判断で韓国に留め置かれたまま。11月末の会談で日本側が改めて返還を求めたところ、「韓国から日本に持ち出された文化財は6万7千点以上あり、これらも議論する機関の設置を」と論点をすり替えるような提案がなされた。韓国内でも「2体を返すべき」との声も少なくないが、「ウリナラ(韓国)文化万歳」のナショナリズムの前には、道理が引っ込む不条理がある。(桜井紀雄)
■バッシングに懲りて世論迎合?
新たに盗まれたのは、長崎県対馬市の梅林寺にあった市指定有形文化財の「誕生仏」。11月24日に盗難に遭い、通報で駆け付けた警察官が港で、誕生仏を所持していた自称住職(70)ら韓国人5人を見つけ、逮捕した。うち2人が「売ればカネになる」と供述したという。
2012年10月にも、対馬市の寺と神社から国の重要文化財を含む仏像2体が盗まれ、韓国に持ち出される事件があっただけに、韓国でも「仏像の返還問題が韓日外交の争点になっている中、再び韓国人の窃盗事件が起きた」と衝撃をもって報じられた。
12年に盗まれた仏像のうち1体について、本来の所有者を主張する韓国の寺の請求で、韓国の地裁が昨年2月、「日本が正当に持ち出した証拠がない限り、返してはならない」と、日本への返還を差し止める仮処分を決定。2体は韓国の国立文化財研究所に「接近禁止」の札を付けられ、保管されている。
そうした最中、今年11月29日、横浜市で開かれた日中韓文化相会合に合わせた会談で、下村博文文部科学相が「長年、信仰対象として大切に保管されてきた」と、改めて2体の返還を韓国の金鍾徳(キム・ジョンドク)文化体育観光相に求めた。
韓国の聯合ニュースによると、これに対し、金氏は「その問題だけでなく、日本側が韓国から不法に持ち出した文化財も議論しなければならない」とし、「この問題を協議する両国共同の機関を設置するよう」提案。「海外にある韓国文化財の43%に当たる6万7千点以上が日本にある」とも強調したという。
そもそも、現在の窃盗事件の被害品と、過去の海外流出した文化財は、同じ議論の俎上に上げるべきものではなく、金氏の提案は論点のすり替えと言わざるを得ない。
これには、伏線があった。昨年9月の会談でも2体の返還を求めた下村氏に対し、前任の文化体育観光相が「盗難・略奪文化財は返還すべきだ」と常識的な返答をしたところ、「返還を約束した」と報じられ、「勝手に返還を決めるとは何事だ」と韓国内でバッシングにさらされた。
韓国世論受けするような今回の金氏の共同機関設置提案について、韓国メディアは「これを意識したのか、今回の韓国側の回答は大きく変わった」と伝えた。
■文化財流出大国? 文化財窃盗大国?
金氏が述べた「日本への流出文化財6万7千点」については、韓国の国外所在文化財財団が、海外に流出した文化財は約15万点で、うち日本には、6万6824点あるとの調査結果を示しており、これに依拠しているとみられる。
韓国では、個人保管を含めると、日本流出の文化財は30万点を超えるとも推定されている。韓国は「文化財流出大国」ともいえ、韓国政府は、日本や米国など各国に再三、流出文化財の返還を求めてきた。
「韓国の文化財研究のために、日本を訪れなければならないほどだ」との皮肉混じりの声も漏れる。
このため、日本側が会談で仏像の返還を繰り返し求めるのは、「『韓国は盗んだ文化財を返さない国』と宣伝すると同時に、日本による過去の違法な文化財持ち出しから目をそらす目的もあると分析される」(朝鮮日報)とうがった見方も韓国内でまかり通っている。
今回の新たな仏像窃盗についても、韓国紙ハンギョレはコラムで、「相当数の韓国人は、倭寇に略奪された韓国の遺物を取り戻そうとしたまでだと解釈している」と、日本の受け止め方との隔たりの大きさに触れている。
過去、日本の関西地方で高麗青磁や仏画を盗んだ韓国人窃盗犯が逮捕後、「そうするしか、略奪された文化財を取り戻す方法がなかった」とうそぶいたとも伝えられる。
最近も、盗品の仏像や仏画といった仏教文化財を収蔵庫にため込み、オークションに掛けていた末、仏教美術界で信望のあった私立博物館の館長(73)が逮捕されるという驚く事件も発覚した。
韓国で文化財窃盗は以前から横行しており、窃盗団の一部が、韓国で高値が付く仏像などを狙って対馬に上陸したとみられている。
韓国の文化財の闇市場の規模は、1兆ウォン(約1千億円)台に上るとの推定もある。過去には、中国吉林省にある高句麗時代の壁画がチェーンソーで切り取られる事件が起きたが、韓国の古美術商の指示を受けた地元住民の犯行とされる。
韓国は「文化財流出大国」であると同時に、海外をまたにかけた「文化財窃盗大国」でもあるようだ。
■返還主張も結局、「ウリナラ文化万歳!」
とはいえ、対馬から持ち去られた仏像について、韓国内で「速やかに日本に返すべきだ」との正論も決して少数意見ではない。
対馬文化の韓国人研究家は「対馬に残っている多くの文化財は、日本が盗み出したのではなく、交流の中、自然に渡ったもの。日本を“文化財泥棒”扱いせず、対馬に置いて、私たちのものだと誇るのが正しい」と韓国メディアに語っている。
流出文化財を調べる国外所在文化財財団の理事長でさえ、中央日報の取材に、「不法行為は許してはならず、日本に戻すのが正しい」と強調し、司法判断で2年以上韓国に留め置かれている現状について、「原則もなく、場当たり的に対応した。判決による被害は甚だしい。日本の文化財界全体が反韓ムードに転じた」と批判した。
ただ、この意見に対し、同紙記者は「市民の文化財愛が誤っていたのか」と問いただし、「もちろん文化的愛国主義は望ましい。だが、不法にやってはならない」と答えざるを得ないやり取りをみていると、韓国でより優勢な「正論」がどちらにあるのかが垣間見える。日本では、常識的とされる道理も「愛国」の旗印を前には分が悪いのだ。
「対馬の仏像を日本に返還すべきだ」と行政訴訟を起こした僧侶もいる。慧門(ヘムン)僧侶だ。訴えは「原告の資格がない」と棄却され、控訴している。
ハンギョレが慧門僧侶に対して行ったインタビューが興味深い。
「私たちの文化財だといって盗むのは、単なる非文明的な行為だ」「盗んできた仏像は、日本に返さなくては。対馬の仏像問題は、刑事事件として扱わなければならない。民族感情で解決しようとすると、さらにこじれる」と実に歯切れがいい。
返還を先延ばしする韓国当局に対しても「単に無能な行政であるにすぎない」ときっぱり切り捨てる。
しかし、同僧侶は、韓国の文化財返還運動団体代表であり、北朝鮮の仏教組織とともに11月に「東京国立博物館保管の略奪文化財の返還を求める」共同声明まで出している。訴訟にしても「日本から文化財を奪還する上で、対馬の仏像窃盗問題が障害になっている」との立場から早期返還を主張しているのだ。
インタビューの後半、「略奪した文化財を返さない日本に、なぜわれわれから積極的に返さなければならないのか」という質問にこうも語っている。
「相手が悪いからといって、同じ対応をするのは文明人の取る態度ではない。私たちは、昔から日本に教える先生の国だった。仏の教えを伝えたのもわれわれだ。日本に道徳が何かをまず、われわれが知らしめなければならない」
僧侶は生粋のナショナリストであり、文化的な“上から目線”で日本に諭そうとしているのだ。先に挙げた対馬文化の研究家も「対馬に置いて、私たちのものだと誇るのが正しい」と語っていることからみて、「ウリナラ文化万歳」の立場に違いはなさそうだ。
韓国では、返還論の旗振り役もまた、「愛国」の文脈からすると、返還反対論者と何ら変わるところがないことになる。「そこのけ、そこのけ、ナショナリストさまが通る」の韓国の国情に変化が生まれる気配はいまのところ、うかがえない。
■バッシングに懲りて世論迎合?
新たに盗まれたのは、長崎県対馬市の梅林寺にあった市指定有形文化財の「誕生仏」。11月24日に盗難に遭い、通報で駆け付けた警察官が港で、誕生仏を所持していた自称住職(70)ら韓国人5人を見つけ、逮捕した。うち2人が「売ればカネになる」と供述したという。
2012年10月にも、対馬市の寺と神社から国の重要文化財を含む仏像2体が盗まれ、韓国に持ち出される事件があっただけに、韓国でも「仏像の返還問題が韓日外交の争点になっている中、再び韓国人の窃盗事件が起きた」と衝撃をもって報じられた。
12年に盗まれた仏像のうち1体について、本来の所有者を主張する韓国の寺の請求で、韓国の地裁が昨年2月、「日本が正当に持ち出した証拠がない限り、返してはならない」と、日本への返還を差し止める仮処分を決定。2体は韓国の国立文化財研究所に「接近禁止」の札を付けられ、保管されている。
そうした最中、今年11月29日、横浜市で開かれた日中韓文化相会合に合わせた会談で、下村博文文部科学相が「長年、信仰対象として大切に保管されてきた」と、改めて2体の返還を韓国の金鍾徳(キム・ジョンドク)文化体育観光相に求めた。
韓国の聯合ニュースによると、これに対し、金氏は「その問題だけでなく、日本側が韓国から不法に持ち出した文化財も議論しなければならない」とし、「この問題を協議する両国共同の機関を設置するよう」提案。「海外にある韓国文化財の43%に当たる6万7千点以上が日本にある」とも強調したという。
そもそも、現在の窃盗事件の被害品と、過去の海外流出した文化財は、同じ議論の俎上に上げるべきものではなく、金氏の提案は論点のすり替えと言わざるを得ない。
これには、伏線があった。昨年9月の会談でも2体の返還を求めた下村氏に対し、前任の文化体育観光相が「盗難・略奪文化財は返還すべきだ」と常識的な返答をしたところ、「返還を約束した」と報じられ、「勝手に返還を決めるとは何事だ」と韓国内でバッシングにさらされた。
韓国世論受けするような今回の金氏の共同機関設置提案について、韓国メディアは「これを意識したのか、今回の韓国側の回答は大きく変わった」と伝えた。
■文化財流出大国? 文化財窃盗大国?
金氏が述べた「日本への流出文化財6万7千点」については、韓国の国外所在文化財財団が、海外に流出した文化財は約15万点で、うち日本には、6万6824点あるとの調査結果を示しており、これに依拠しているとみられる。
韓国では、個人保管を含めると、日本流出の文化財は30万点を超えるとも推定されている。韓国は「文化財流出大国」ともいえ、韓国政府は、日本や米国など各国に再三、流出文化財の返還を求めてきた。
「韓国の文化財研究のために、日本を訪れなければならないほどだ」との皮肉混じりの声も漏れる。
このため、日本側が会談で仏像の返還を繰り返し求めるのは、「『韓国は盗んだ文化財を返さない国』と宣伝すると同時に、日本による過去の違法な文化財持ち出しから目をそらす目的もあると分析される」(朝鮮日報)とうがった見方も韓国内でまかり通っている。
今回の新たな仏像窃盗についても、韓国紙ハンギョレはコラムで、「相当数の韓国人は、倭寇に略奪された韓国の遺物を取り戻そうとしたまでだと解釈している」と、日本の受け止め方との隔たりの大きさに触れている。
過去、日本の関西地方で高麗青磁や仏画を盗んだ韓国人窃盗犯が逮捕後、「そうするしか、略奪された文化財を取り戻す方法がなかった」とうそぶいたとも伝えられる。
最近も、盗品の仏像や仏画といった仏教文化財を収蔵庫にため込み、オークションに掛けていた末、仏教美術界で信望のあった私立博物館の館長(73)が逮捕されるという驚く事件も発覚した。
韓国で文化財窃盗は以前から横行しており、窃盗団の一部が、韓国で高値が付く仏像などを狙って対馬に上陸したとみられている。
韓国の文化財の闇市場の規模は、1兆ウォン(約1千億円)台に上るとの推定もある。過去には、中国吉林省にある高句麗時代の壁画がチェーンソーで切り取られる事件が起きたが、韓国の古美術商の指示を受けた地元住民の犯行とされる。
韓国は「文化財流出大国」であると同時に、海外をまたにかけた「文化財窃盗大国」でもあるようだ。
■返還主張も結局、「ウリナラ文化万歳!」
とはいえ、対馬から持ち去られた仏像について、韓国内で「速やかに日本に返すべきだ」との正論も決して少数意見ではない。
対馬文化の韓国人研究家は「対馬に残っている多くの文化財は、日本が盗み出したのではなく、交流の中、自然に渡ったもの。日本を“文化財泥棒”扱いせず、対馬に置いて、私たちのものだと誇るのが正しい」と韓国メディアに語っている。
流出文化財を調べる国外所在文化財財団の理事長でさえ、中央日報の取材に、「不法行為は許してはならず、日本に戻すのが正しい」と強調し、司法判断で2年以上韓国に留め置かれている現状について、「原則もなく、場当たり的に対応した。判決による被害は甚だしい。日本の文化財界全体が反韓ムードに転じた」と批判した。
ただ、この意見に対し、同紙記者は「市民の文化財愛が誤っていたのか」と問いただし、「もちろん文化的愛国主義は望ましい。だが、不法にやってはならない」と答えざるを得ないやり取りをみていると、韓国でより優勢な「正論」がどちらにあるのかが垣間見える。日本では、常識的とされる道理も「愛国」の旗印を前には分が悪いのだ。
「対馬の仏像を日本に返還すべきだ」と行政訴訟を起こした僧侶もいる。慧門(ヘムン)僧侶だ。訴えは「原告の資格がない」と棄却され、控訴している。
ハンギョレが慧門僧侶に対して行ったインタビューが興味深い。
「私たちの文化財だといって盗むのは、単なる非文明的な行為だ」「盗んできた仏像は、日本に返さなくては。対馬の仏像問題は、刑事事件として扱わなければならない。民族感情で解決しようとすると、さらにこじれる」と実に歯切れがいい。
返還を先延ばしする韓国当局に対しても「単に無能な行政であるにすぎない」ときっぱり切り捨てる。
しかし、同僧侶は、韓国の文化財返還運動団体代表であり、北朝鮮の仏教組織とともに11月に「東京国立博物館保管の略奪文化財の返還を求める」共同声明まで出している。訴訟にしても「日本から文化財を奪還する上で、対馬の仏像窃盗問題が障害になっている」との立場から早期返還を主張しているのだ。
インタビューの後半、「略奪した文化財を返さない日本に、なぜわれわれから積極的に返さなければならないのか」という質問にこうも語っている。
「相手が悪いからといって、同じ対応をするのは文明人の取る態度ではない。私たちは、昔から日本に教える先生の国だった。仏の教えを伝えたのもわれわれだ。日本に道徳が何かをまず、われわれが知らしめなければならない」
僧侶は生粋のナショナリストであり、文化的な“上から目線”で日本に諭そうとしているのだ。先に挙げた対馬文化の研究家も「対馬に置いて、私たちのものだと誇るのが正しい」と語っていることからみて、「ウリナラ文化万歳」の立場に違いはなさそうだ。
韓国では、返還論の旗振り役もまた、「愛国」の文脈からすると、返還反対論者と何ら変わるところがないことになる。「そこのけ、そこのけ、ナショナリストさまが通る」の韓国の国情に変化が生まれる気配はいまのところ、うかがえない。
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最終更新:12月11日(木)21時5分